エルヴィ・シレン インタビュー & 作品批評記事

国際レジデンスエクスチェンジー立ち止まらせ、考えさせる
ライター&記者:Saara Moisio(サーラ・モイシオ)、2012年7月3日
翻訳:堀内都喜子

日本人の若い女性ダンサーがステージの上でゆっくりと動く。思考と感覚が取り巻く空間、肉体、照明、音の世界。ある時は指が、ある時はひじや膝が動きを導いている。身体全体が非常に繊細な状況にあって、環境のわずかな刺激も見逃さないように見える。
女性のキャラクターは生きた縫いぐるみのようで、その動きは自分が完全に望むものではないように見えるが、それでも非常にコントロールできている。他の4人のダンサーが女性ダンサーの背後や周りで動き始め、お互いを集中した様子で確認し、時には急激にスピードを上げる。ダンサー間の緊張が観客を刺激する。東洋的なエレクトリック音楽、太極拳を思わせるゆっくりとした動き、時々現れるすばやい動き、その影が背後の壁に一瞬点滅し映し出され、観客が引き込まれる世界を作り上げる。音楽、振付、照明のコラボレーションは催眠術のように見ているものを溺れさせる。この作品の大部分は肉体と、動きがもつ特性である。そこに作品の元となった何か物語があるのではなく、解き放ってくれるのである。
これは、Ervi Sirénが5人の日本人ダンサー、音楽家のAake Otsalan 、照明デザイナーの藤本隆行と創った「Kite」という作品である。 心に鮮やかに印象に残ったのは、女性ダンサー立石裕美で、そのゆっくりとした非常に集中した動きは、ずっと見ていても飽きないであろう。本作品に出演していたのは他に、女性ダンサー岩淵多喜子、男性ダンサー 垣尾優、川口隆夫、玉邑浩二である。
ダンサーたちは皆、年齢も経歴も様々である。岩淵多喜子はラバンセンターを卒業し、LUDENSを創立。垣尾優がダンスを始めたのはジャクソン・ポロックの作品、大野一雄にインスピレーションを受けたのがきっかけである。Contact Gonzoのメンバーで、Ensemble Sonne、Dance Theatre LUDENSの作品に参加している。川口隆夫は1991年に吉福敦子とともにATA Dancenを立ち上げ、幅広いパフォーマンスアーツに関わっている。立石裕美はジャズダンスとクラシックバレエ出身。彼女が振付した「Peace」と 「Spiral」 は2008、2009年に発表された。玉邑浩二 は“とりととら” の創設者兼脚本家で、2009年武藤容子の研修生として 2011年の千代田芸術祭で自身の作品「雨」を発表した。玉邑氏は伊藤千枝賞を受賞している。
「KITE」はJapan Contemporary Dance Network (JCDN) とZodiakのレジデンス・エクスチェンジ及び共同製作から生まれた2つの作品のうちの一つである。作品の初演は2012年3月2日、京都芸術センターでおこなわれた。
クオピオでErvi Sirenにインタビューし、日本人ダンサーとの経験について話を聞いてみた。私自身は、パフォーマンスを見た際に、動き、音楽、照明の絶妙なバランスと互いに補い合う関係に感銘を受けたので、本作品が生まれた経緯に非常に興味があった。

動きへの文化的影響と凧の特長
インタビューでSirénが強調したのは、この作品は彼女が振付し、動きは彼女が創ったものではあるが、重要なのは日本の文化がこの作品に大きな影響を与えている、ということである。 プロセスとしては、まず参加したアーティストが各自の世界を持ち寄り、Sirenが求めていることを聞いてから、それを各々が自分の世界に取り入れていった。音楽と照明は動きと同等に大切である。KITEでは、これが非常にうまく作用していた。中でも興味深かったのは、作品の振付はErvi Sirenらしさを感じるものであったが、とりわけ照明とダンサーがもたらす穏やかさがアジア的な雰囲気を醸し出していたことである。
照明デザイナー藤本隆行氏はステージ上にLED照明をリング状に配置し、その中でダンサーはパフォーマンスした。照明はダンサーの動きを後ろの壁に点滅のように映し、 2次元を創っていた。ストロボ照明の方法であったが、より柔らかさがあり、照明が動きの移動方向と流れを強調していた。これに Aake Otsalaの東洋的なエレクトロニックな曲が加わり、お互いを補いあい、うまく融合していた。

 Ervi Sirén: Kite、正面: 立石裕美、川口隆夫、写真: ペトリ・ライティネン.

本作品のプロジェクトは2011年秋、Sirenが東京の森下スタジオで4日間にわたるワークショップを開催した時に発足。まず35人のダンサーの中から5人が本作品のために選ばれた。選ぶ際に注意したのは、各ダンサーがそれぞれ経歴もタイプも全く異なるようにすることであったが、最終的にはSirenが与えた課題を基に、積極的に自分の動きを創り、空間を支配することができるダンサーが選ばれた。
ダンサーからすると技術的な即興のように思えるかもしれないが、Sirenは、これは即興ではなく、ダンサー自身が動きを感じて見つけるという、意味を持った課題である、と言う。練習では、体を開放することに努める。身体は水のようなもので、そこに膝が漂っている。膝を少しずつ目覚めさせ、方向を与えていく。動き、それが身体でどう共鳴するか、45分の練習の中で時間をかけて調べていき、その間Sirenは脇で観察し、方向性を導きながら何が生まれるかを見ている。
KITEという名前の通り、この作品は凧がもつ特徴、存在、軽さ、エア感、静と動の動きなどが基となっている。私にとって非常に印象深かったのは、立石裕美のソロにあったSiren曰く凧のはためく魂の輝きである。一方で、Sirenは凧の特徴として勢いとドラマチックさをあげていたが、それは作品の中でもゆっくりとした動きと速い動きの切り替えで表されていた。Sirenは作品の創作過程で文化に耳を傾け、いつ、何をすべきか指示を与え、同じ練習を何度も繰り返した後にまだ頑張れるかダンサーに尋ね、と振付師としてリーダー的役割を果たしていた。

言葉の壁で立ち止まる
日本とフィンランドの文化には共通点があるとSirenは感じたが、自分の表現、考え、行動は言葉の壁のために、簡素化し、明確にしなければならなかった。一方で、これは貴重な経験でもあった。というのもSiren自身立ち止まって進むべき方向を感じとる必要があったからである。全員にすぐ伝わらない時には、言葉で表現する内容は本当に大事な核心部分でなければならず、それが自分自身きちんとわかっていなければ、伝えることもできなかった。飛行に関する指導では、フィンランド人に対しての手法は日本人には通じなかった。
ダンサーもまた、歩みを遅らせ、立ち止まって考えることが求められた。フィンランド人ダンサーに比べ、日本人ダンサーはSirenの振付方法に慣れていなかったため、ダンサーは例えばSirenが見せることを注意深く見て繰り返すなどした。しかしダンサーは積極的でなければならず、自分のやり方を見つけ、自信を持つことが求められた。Sirénはもちろんダンサー自身が動き、自分で見ることを望んでいるため、最後には選ばれた5人のダンサーというのは、動きの限界を試す勇気のある人たちであった。

 Ervi Sirén: Kite, ダンサー: 垣尾優 写真: ペトリ・ライティネン

5人のダンサー、作曲家、照明デザイナーと共に本作品の創作が始まったのが1月25日。それから3月の初旬まで6週間、週に6日仕事をした。Aake Otsala と藤本隆行も作品の計画段階当初から発表までを共にした。日本に出発する際、OtsalaはSirenに曲のサンプルを聞かせ、日本での練習の間に曲を仕上げていった。この曲は作品と同様に、パフォーマンス見終えた後も非常に印象に残っている。SirénもOtsalaについて、音楽だけでなくダンスも理解しSirenと考えを共有できる人間だと言う。作品全体にとって、これは非常に大きなメリットに間違いない。
本作品は、3カ月のブランクを経て、Zodiakでの2日間の練習後、クオピオで6月19日、20日に上演された。Sirénは、このブランクはその間に上達することができたので、作品にいい効果をもたらしたという。 次回、KITEはもう一つのレジデンスエクスチェンジ・共同制作作品「灰が降る」と共に日本で上演される。

Sirénのスタイル、今現在の日本のダンスアートとは逆
Sirénのインタビュー後、JCDNの芸術監督を務める水野立子にZodiakとのレジデンスエクスチェンジ・共同制作のプロセスについて話を聞くことができた。水野氏は、Sirenの「Viita」という作品を2010年ピュハヤルビのTäydenkuun Tanssit(フルムーンダンス)フェスティバルで見て、自らErvi Sirénを交流事業のフィンランド人振付家に選んだ。同じ年、JCDN とZodiakは交流プログラムをすすめ、その一環で共同製作が実現することとなった。交流プログラムのもう一方の振付家には、日本の振付家坂本公成が選ばれた。坂本は翌年のTäydenkuun Tanssit(フルムーンダンス) –フェスティバルに5人のフィンランド人ダンサーJohanna Ikolan、Meeri Altmetsin、 Kaisa Niemen、Jarkko Lehmuksen、Ville Oinosenを選出した。.
水野氏がErvi Sirenを選んだのには、振付の手法が現在の日本での主流とは大きく違っていることが影響していた。日本での主眼は、振付の指導と細かな構成にある。水野氏によると、日本では有名な名前や大きな作品が求められ、ダンスの中核が失われる傾向があるという。Sirenの手法はそれとは逆でパフォーマンスからパフォーマンスへ振付を発展させるのであって、ダンサーの経歴が動きのなかに反映され、体が動きを決定し、観客は想像力を使うことが求められる。水野氏によると KITEを見た観客の反応は、理解できた人たちと、できなかった人たちで二つに分かれていたという。振付に魅力を感じた人たちは、動きが正直なものだと感じたようだ。水野氏は国際的な共同事業のいいところは海外の振付家が何かを残し、考えさせてくれることだと語る。
Sirénはインタビュー中にJyrki Karttunen(ユルキ・カルットゥネン)の言葉を引用して 「誰も知らない遠い場所へ行ったら、Siren(Karttunen)がどう踊るか」と言っていたが、自分の動きに新たな文化の要素が加わることで、さらに前進し、新たな視点で物事を見ることができるようになる。
坂本公成の作品「灰が降る– Ash is Falling –」はZodiakで4月に見たが、KITEからも感じたように、馴染みのあるような動きも見られたが、今まで見たことのないような新たな、フレッシュな印象も感じられた。SirénのKITEに比べ坂本氏の作品は自然と人間の関係という明確なテーマがあり、考えさせられる作品である。振付は非常に細かく構成、コントロールされ、Kiteからも伝わった同じような集中力が見られた。「灰が降る– Ash is Falling」 は次回ピュハヤルビのTäydenkuun Tanssit(フルムーンダンス) –フェスティバルで7月に上演される。SirénのフィンランドでのKITEの次回上演は未定である。JCDNとZodiakのレジデンスエクスチェンジは資金状況にもよるが、これからも継続される予定である。

Saara Moisio

作者はTanssin Liikekieli団体の財務担当者。ヘルシンキ大学で演劇学を学びArt Theory, Criticism and Managementー修士取得。

KITE
振付: Ervi Sirén
照明: 藤本隆行
作曲: Aake Otsala
ダンサー: 岩淵多喜子、垣尾優、川口隆夫、玉邑浩二、立石裕美
初演: 2012年3月2日、京都芸術センター
灰が降る – Ash if Falling
振付: 坂本公成
照明: 藤本隆行
音響: Toru Yamanaka
ダンサー: Meeri Altmets, Johanna Ikola, Kaisa Niemi, Jarkko Lehmus, Ville Oinonen
初演: 11.4.2012, Zodiak – ニューダンスセンター

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